file #45
ニューヨークの友人の最期と、日本の父の最期との違い
46歳男性 アメリカ(ニュージャージー州)在住公開日:2022年2月4日
音声で聴く:
Reading by Dai Hirohashi
大学を卒業した後、縁あってニューヨークで働くことになったんですよ。会社にビザ代も負担してもらえるし、とりあえず1年くらいやってみようかなって感じで行くことにしました。
場所はニューヨークですが、社内は日本人ばかりでした。そこで一緒に働いていた先輩から大麻について教えてもらい、初めて吸いました。吸って「タイタニック」を観に行ったのですが、その時は英語も全然わからなかったのに内容が入ってきて、普通に楽しめましたね。第6感が働いたというか。きっとアーティストの方がひらめくために大麻を吸うっていうのは、こういうことなんでしょうね。
今でこそニューヨークは嗜好用まで合法化されてますが、当時は医療も嗜好も合法じゃなかったです。ですが周りでは普通に吸っているアメリカ人が多かったし、特に吸うのに抵抗はなかったですね。
それ以降はたまにしか吸わなかったです。仕事後ストレスを強く感じた時に、帰りのバスに乗る前に道端の影でこっそり吸ったりしたぐらいです。まぁそれよりも飲みにいくことのほうが多かったですね。
仕事は板前だったんですけど、当時は修行がかなり厳しかったんですよね。殴る蹴るは日常。はじめは絶対1年で帰ってやるって思ったけど、修行しているうちに一人前の板前になりたいっていう思いが強くなって、そのまま現地に残ることにしました。
ですがやっぱそういう状況なのでストレスがたまっていき、お酒とたばこに走るようになりました。毎日焼酎とかウイスキーをボトルで1本とか平気で開けてましたよ。
そんな生活を続けてたら26歳の頃、胃が痛くなり吐血するようになったんです。それでもすぐに病院に行かず働いてたんですけど、車の運転中に意識がなくなったりすることもあり、再度吐血したタイミングで救急車を呼びました。診断は胃潰瘍で、最高血圧が70mmHgとかしかなく、10日ほど入院しましたね。それ以来たばこはやめて、お酒も友人との付き合い以外はなるべく控えるようになりました。
それからも大麻は現地の友達と付き合い程度で吸ってましたが、途中で吸わなくなりました。というのも、6年間の短い間に飲酒運転で2回逮捕されちゃったんですよね。幸い、刑務所まで行かず2回とも無罪ですみましたが、下手したら強制送還とかになってもおかしくなかったです。そういうのもあって、これ以上罪を重ねたらまずいと思い、しばらく大麻も吸わなくなりました。
10年ほど前から独立し、ケータリングでフリーの板前として働くようになったタイミングで、また少しずつ大麻を吸うようになりました。本格的にガンガン吸うようになったのは、5年ほど前からです。
今ではもうWake&Bakeっていうんですけど、朝起きたら(Wake)大麻を焚いて(Bake)吸ってます。目が覚めたらまず日本にいる母にFaceTimeを使って電話するんですよ。日本ではちょうど夜なんです。母は動けはするけどほぼ寝たきりで生活してて、一人暮らしなんですよね。なので3,4時間画面越しに話をして、変わったことがないか観察してます。遠距離看護ですね。それが終わったら吸い始めるってのがルーティンになってます。
仕事の日はあまり朝から吸わないようにはしていますが、最近はコロナもあって家にいることが多いので、1日中吸ってることが多いです。パイプで吸うことが多いですが、エディブルやらリキッドやら色んな方法で摂取しているので正確な量はわからないです。ジョイントにして2,3本くらいですかね。インディカやサティバ、ハイブリッドなども使い分けてます。医療用のキャンディなんかもあって、簡単に開けられないようにちゃんとチャイルドロックで保護されてますよ。
私の住んでいるニュージャージー州は、医療用大麻のみ合法です。ひと月に買える量は決まってますが、メディカルカードさえあれば、処方箋を使ってディスペンサリーで大麻を買うことができます。僕は友達の処方箋を使って買ってますね(笑)オンラインで買えるんですよ。ディスペンサリーで直接受け取らなきゃいけないので、それは友達にお願いしてます。
医療用も嗜好用も結局モノは同じなので、普通にプライベートで吸えますね。隣はニューヨークだし、もうそこらへんで大麻のにおいがしても誰も気にしてないです。弁護士の人とか、そういう社会的地位の高い職についている人も普通に吸ってます。大麻を吸ったからといって社会的に後ろ指をさされるってことはもうないって感じですかね。まぁ下手に持ち運んでると、違反チケットを切られる可能性はありますけど。それでも駐車違反ぐらいな感覚ですね。
ただ、アメリカの企業ってドラッグテストを行っているところが多いんですよ。なので大麻を吸っていると一部の企業には就職できないです。そういう意味では、ある意味社会的信用度は低いのかもしれないですけどね。
ニュージャージー州では、今年からマリファナビジネスのライセンスも申請できるようになりました。ちょっと大変そうなので私はやりませんが、マイノリティの人だったり、大麻で逮捕歴のある人に対して優先的にライセンスを発行してるんですよ。マリファナビジネスは何億円規模の世界で、利益の何割かは地元に納める形になってるので、地域活性化にもつながりますよね。こういう合法化に向けたプロセスを見ているのも楽しいですよ。今後日本でも役に立っていくのかなって思ってます。
ちなみにコロラド州でも仕事で寿司をにぎったことがあって。その時にはもうコロラド州は嗜好用大麻まで合法化されていたんですけど、もらうチップの内容が大麻だったりしましたね(笑)
あとこっちの人は大麻は屋内で吸うのに、たばこは外で吸うんですよ。理由を聞いたら、たばこは火をつけたら消えないしにおいも残るけど、大麻は自然と火は消えるしにおいもあまり残らないからって言ってました。
大麻の効果ははじめの頃と今では違いますね。はじめの頃は、血流がよくなって頭がポワーってする感じでした。お酒は酔うとアグレッシブになりケンカになることもありましたが、大麻では逆に喋りたくなくなりましたね。目つぶって瞑想したいって感じでした。
今も気持ちよくなるのは一緒ですが、読書とか映画が好きなので、吸いながらそういうのに没頭したりしています。
大麻のメリットは、お酒の量を減らせたことですかね。大麻を吸ってお酒まで飲んだらぜいたくなので。お酒のほうが高いんですよ。大麻は1オンス200〜300ドルくらいで、それでひと月ちょっとはもちますから。なんなら友達と吸うときは、今日は誰かのネタを吸おうみたいな感じで、日によってタダだったりしますし。あとは大麻ではケンカにならないってのもメリットですかね。
大麻は性生活とも相性がいいです。夫婦生活が円満になると思いますよ。友達とよく言いますよ、”酒を飲んで帰ると嫁を殴るが、草を吸って帰ると子どもが増える”って。ハードドラッグはまたちょっと違う気持ちよさがあるみたいです。
ハードドラッグは使ったことはありますけど、僕はあまり合わなかったのでそれっきりです。経験上、大麻がゲートウェイドラッグになるっていうのはあまり気にしなくていいと僕は思ってます。ハードドラッグを求めるかどうかはその人の問題であって、大麻の問題じゃないんじゃないですかね。
7年前の話ですが。帰国し実家に行ったら、父がすごく具合悪そうだったんです。それで病院に連れて行ったら末期のがんで、余命は3週間だと言われました。
友人が経営している病院だったこともあり、個室に入院することができ、そこで父と過ごしました。入院する前からそうだったみたいですが、父は食事ものどを通らない状況で、見てるのがすごい辛かったですね。このあたりから大麻の医療的側面に興味を持つようになりました。
病院の友人は海外に留学に行っていたこともあり、大麻のこともよく知っていました。ですがやっぱ日本では法律もそうだけど、大麻の医療効果に対する知識が追いついてないし、使うことはできないって話してましたね。
父は入院して数日は会話ができてたのですが、その後せん妄状態となり、僕を含め家族を認識できなくなりました。日が経つにつれどんどんせん妄が激しくなり、医師から「注射で休ませましょうか?もう二度と目が覚めなくなるかもしれないですけど」という説明を受けました。その提案を了承し鎮静をかけてもらい、その4日後に父は安らかに亡くなっていきました。
一方で・・・
私はニューヨークへの出張が多く、その時に泊まる友達の家があるんです。その友達の家は他にも色んな人が住んでいたのですが、そのうち3人はがんで亡くなってるんですよね。
彼らは化学療法を受けながらその家で過ごし、よく一緒にマリファナを吸ってました。みんなで吸う分くらいの栽培もしてましたね。大量のマリファナをプレゼントした時には大喜びしてましたよ。いよいよって時になったらホスピスには行きましたが、それまでは楽しく過ごしてました。ご飯も食べてたし、僕がにぎった寿司もおいしく食べてくれてました。
僕自身はこういう症状に大麻がいいよとか、特にそういうことは言えません。効き目は人それぞれだと思いますので。このプロジェクトの記事を全部読みましたが、精神面で助けられている人が多いですよね。僕もうつっぽいんですけど、大麻に助けられたというよりは、周りの友達に助けられたほうが大きいと感じています。痛みにも効くって言いますけど、それも正直よくわからないです。
ですがニューヨークの友人たちの最期を目の当たりにして、日本でもこういう風になれたらいいのになって思います。日本では医療目的で大麻を使用していた末期がんの方が裁判で戦ってましたよね。途中で亡くなられたみたいですけど。そういうニュースをみると心が痛みます。こういう役に立つものがなぜ禁止されるのかなって思いますね。
昨年の厚生労働省の有識者会議の議事録みましたよ。海外のレポートを読んでいるとは思うのですが、なんであんな頭のいい人たちが理解できないんだろうって残念に思いましたね。
日本では、ちょっとヤンチャな人が大麻を吸うってイメージがあると思います。大麻を吸っている人の中には、変な人が多いのも事実です。なので日本では完全に自由に吸えるようになるってのは難しそうですよね。社会が受け入れなさそうな気がします。ですが、そういう人ばかりじゃないんだよってことは知ってもらいたいです。
新たな嗜好品を認めるっていうのは、国にとってはリスクですよね。たばこでは健康被害がでてるし、お酒でも飲酒運転で問題が起きてるし。そんなところに大麻まで出てきたら、知らない人からしたら当然また問題が増えるんじゃないかって思いますよね。
大麻を吸って運転する人ってわりといるんですよね。僕もたまにありますけど、逆にスピードを出さなくなって安全運転になります。でもこういうことを話しても、日本では悪いことをしている人の言い訳にしか聞こえないですよね。なのであまり大麻のいいことばかりを話さないようにはしてます。
私にとっての大麻の悪いことといえば、まずは暇な時に吸いすぎちゃうことですかね。別にやめられないとかそういうことじゃないんですけどね。
それと私の場合、吸いはじめの頃に、お酒でいう二日酔いみたいなものはありましたね。朝起きるのがつらかったりとか、完全にTHCが抜けるまでちょっと怒りっぽかったり、せかせかしちゃったりとか。仕事には影響しなかったですけどね。吸ってすぐに寝るとそういうことが多かったです。
あとは良くも悪くも1つのことに集中しすぎて周りが見えなくなったりとかもあります。吸い慣れてくるとこういうのはなくなってきますけどね。
それとオーバードーズですかね。ひどいときは翌日に一日起き上がれなくなったこともあります。その時は友達が大麻入りのケーキを作ってくれたんですよね。で、がっつりマンチーに入ってたので、丸々1個(両手で丸を作るより少し大きいくらいのサイズ)食べたんですよ。それで・・・(笑)知らない人とかは怖くなって病院に連絡するかもしれませんが、僕は大麻で病院の世話にはなったことはないです。
アメリカであっても大麻で検挙されたことはありますよ。大麻に対して保守的なペンシルベニア州のカジノで小遣い稼ぎをしてた時です。一瞬ですがグリーンカードも剥奪されました。裁判になり金銭面でも色々大変でしたけど、違反記録も残らず、無事グリーンカードも返ってきました。日本では大麻で逮捕されると職や信用を失ったりすると思いますが、アメリカではそういうことはなく、社会的に特にマイナスには働きませんでした。
医療的側面もそうですが、実はアメリカでは大麻で逮捕される人が多すぎるから合法化の流れになってるんですよ。裁判所や刑務所がそれでいっぱいになっちゃってたので。日本でも大麻で逮捕されている人が増えているっていうし、そろそろそういう時期なのかなって思ったりもしてます。今後は逮捕者が積極的に声を上げていくといいかもしれないですね。
母の状況もあるので、一応いつでも日本に引き上げられるような準備はしています。もちろん日本に戻ったら大麻は吸えないですけど、別に平気ですね。実際に父の最期の時も吸わなくて平気でしたし。
そもそも日本だとなんか欲しくならないんですよね。やっぱり日本では違法行為っていう印象が強いですから。大麻で逮捕されることでその後アメリカに入国拒否されても困りますしね。そう考えると、僕は大麻に依存性は感じないですね。
大麻を好きな人って結構ナチュラリストが多かったりするじゃないですか。あれ結構理解できるんですよ。友達で山1つ分の牧場を持っている人がいて、将来みんなで一緒にそこで暮らしていこうって話をしてます。豚もいるし、今後は魚の養殖も始める予定です。で、大麻もそこなら育てても大丈夫だと思うので、みんなで吸う分だけ育ててって感じで考えてます。
(担当: 廣橋大)
※本プロジェクトは、以下の企業から支援を受け運営されています
-
GMG
あなたの物語も聞かせて下さい。
インタビューに応募するWho We Are
-
正高 佑志 (まさたかゆうじ)
医師。一般社団法人Green Zone Japan代表理事。著書に「お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)」
Twitter: @yuji_masataka -
三木 直子 (みきなおこ)
翻訳家。一般社団法人 Green Zone Japan 理事。訳書に『マリファナはなぜ非合法なのか?』『CBD のすべて—健康とウェルビーイングのための医療大麻ガイド』『大麻草でがんは治せるか?』他。
Twitter: @greenzonejapan, @indoorcat629 -
長吉 秀夫 (ながよしひでお)
作家・舞台プロデューサー。ステージ制作の傍ら、ジャマイカやインド、北米や南太平洋などを訪れ精神世界、ドラッグ、ストリート・カルチャーなどを中心に執筆。ロック、日本の祭り文化についての造詣も深い。『不思議旅行案内』『タトゥー・エイジ』『大麻入門』(ともに幻冬舎)、『医療大麻入門』等
Twitter: @NagayoshiHideo
Instagram: @nagayoshihideo -
廣橋 大 (ひろはしだい)
看護師。当サイト開発・管理。
「ASA Magazine」ライター。
Twitter: @D__men
Instagram: @d_chan_dp -
生田 和余 (いくたかずよ)
セラピスト。自然療法を生かしたウェルネスケアに従事しつつ、東京工業大学修士課程に在籍し、文化人類学の視点から大麻に関する研究に取り組んでいる。
Twitter: @kazuyo_rk_
Instagram: @kazuyo_rk -
Eiju from Blue Dreamz
ロサンゼルスのマリファナ姐ちゃん。
大麻ショップ店長経験あり。
LAから大麻の情報を発信している活動家
-Youtubeチャンネル登録者数3万6千人
-毎週土曜日ライブ配信「Talking About Weed」
-現地ロサンゼルスでプライベートツアー『ブルドリツアー』を行う
Twitter: @bluedreamzla
Instagram: @bluedreamz_la
Youtube: ブルドリチャンネル by Blue Dreamz -
中本 俊(なかもとしゅん)
WEBマーケティングの支援会社で勤務。
世界一周中に体験した大麻の可能性を多くの人に知ってもらうために活動中。
Twitter: @shun_nakamo -
永井 大貴(ながいだいき)
過去、CBDアイテムを扱うシーシャ屋の運営経験あり。
現在はドキュメンタリー映画制作に取り組みながら執筆活動をしている。
発信活動を通して『愛とは何か?』を伝えていく。
Twitter: @nagaidaiki1996
Instagram: @daikinagai1996 -
日本では「大麻取締法」により、大麻取扱者(都道府県知事によって研究および栽培の免許を受けた者)以外の大麻の所持、栽培、譲り受け、譲り渡し、研究は禁止されています。
当サイトは経験談を通して、大麻への理解を深めることを目的としており、大麻の使用を推奨したり、犯罪を扇動するものではありません。